インタビュー>予防歯科
2020/11/20
【歯科医師インタビュー】何よりも大切なのはセルフケア意識と習慣 健康で美しい歯のための“本当“の方法とは?(前編)
『seeker』でもこれまで何度も取り上げてきた歯のセルフケアの重要性。頭では十分にわかっているものの、これまでの生活習慣を変えるのはなかなか難しく実際に日々の行動に落としてケアできているかというと自信のない人も多いのでは。 また定期的にケアしていたとしても実は中身が不十分だったり、方法が間違っていると全てが台無しに。今回は元・人気予備校講師と異色の経歴持ち、現在は日本全国のたくさんの歯科医師や歯科衛生士などのプロに対してセルフケアの重要性や方法を伝授している中原維浩ドクターに、とにかくわかりやすく丁寧に健康で美しい歯をつくり、磨いていくポイントを【前編】【後編】の2回に分けてお届けします。
歯科医師に至るまでのストーリー
ーーーこの度は毎日診療や講演でお忙しい中、インタビューを受けてくださりありがとうございます。まず最初に中原先生(以下、先生)の人となりを知るために歯科医師の現在に至るまでのストーリーを教えていただけますか? こちらこそよろしくお願いします。全然関係ないところから入るんですけど(笑)、高校時代は予備校講師になることが将来の夢でした。予備校講師は高卒でアルバイトはできるんですが、正社員で入るのはなかなか難関で。私の場合、幸い成績が良かったのもありましてご縁があって、めでたく採用していただきました。当時は授業コマ数で給与が決まるので、生徒に人気があれば1億円プレーヤーがざらにいるというのが予備校講師の世界。私も順調に軌道に乗りまして、若干19歳で一般的な社会人よりも高いお給料をいただくように。午後から出勤して夜中まで働き、自分も書籍なども出版し1億円プレーヤーを目指そうかなと当然のように考えていたんです。 ところが、20歳の時に地元で歯科クリニックを開業していた父が脳梗塞で倒れてしまったのが大きなターニングポイントになりました。父が診療現場に出れない間、診療所をどうするか?閉じるか?となった時に、クリニックのスタッフや地域の周りのクリニックの方たちが全力で助けてくれて存続をしてくれたのです。それまでは予備校講師として、周りはみんなライバルで一匹狼として働いていた私は、チーム医療というものを目の当たりにして非常に感銘を受けました。また支えてくれているスタッフや地域の人たちに恩義を感じて、医療とは何て素晴らしいのだ!と思いまして、歯科大学に通い始めました。 大学時代はABCマートでバイトをしながら生計を立てていて、今となってはいい経験です。地域医療の大切さを感じ、いかに地域に愛されるような功績を残せるか『記録よりも人々の記憶に残る仕事がしたい』と歯科医師を志すようになったのです。父からも一切、歯科医師になることは勧められていませんでしたが、思わぬきっかけにより、自分も歯科医師になりたいと思ったのがスタートです。
得意な治療:噛み合わせ
ーーーすごい…!ドラマにできそうなストーリー!お父様の病気をきっかけに大きく人生が変わったのですね。ちなみに先生は噛み合わせ治療も得意とされていますが、歯学部卒業後に本格的に専門にされたのでしょうか? 最初、顎関節症で来院した患者さんにはマッサージで治していたんです。歯学部にいると歯周病と糖尿病の関係を習いますが、歯科治療をいかに上手にやるかという事にしかフォーカスされないんですよ。1本の歯を大事に治療することが全身にいかに影響するのか、噛み合わせが身体全身に及ばす影響を勉強したら、とっても面白かったんです。 患者さんの記録を残すクリニックってまだまだ少ないのですが、私はしっかり経時的な変化を残すようにしています。それで見ると、噛み合わせの改善を機に良い影響が出ている人が増えているんですよね。肩こり頭痛の9割は噛み合わせのせいと言われる事もあるんです。インプラントで奥歯が回復するだけでこんなに体調に変わるんだという事例も見まして、歯とはいえ、噛み合わせが全身に影響するダイナミックな治療ができるんだと学びました。
オーラルセルフケアマイスターとして
ーーー肩こりや頭痛の改善までとは知らなかったです。お口の状態が実際に全身にも関連があるんですね。先生は現在“オーラルセルフケアマイスター“として全国で講演をされていらっしゃいますね? はい。きっかけは歯科医になってから4年目の冬に当時勤務だったクリニックの院長にスウェーデンに勉強に行かせてもらったことでした。スウェーデンは予防医療大国。日本だと80歳で残っている歯は8本〜10本だけですが、かたやスウェーデンは20本以上残っているんです。なぜ国によってこんなに違うのか?実はドクターや歯科衛生士の技術より、国民の健康観そして歯の価値観が違うことが大きかったんです。 根本は歯のセルフケアの意識づけとモチベーションアップ。私たちが大学で学んできたことは技術面の指導が主でしたが、本当のところは患者さんの「健康観」の意識を磨いていかなければ何をしても無駄なんだなと気づきました。患者さんの歯ブラシ指導は、そもそも本人の歯周病をなくしたいという意識が大事なので、なぜ虫歯や歯周病になるのかの背景をしっかり伝えておくと、しっかり自宅でもセルフケアをしてくれる。 これを日本の歯科業界にも広めていかなければと強く思ったのです。
歯科クリニックと薬局にあるセルフケアグッズの違い
ーーー予防の意識がいかに重要かということですね。そして私たちが気になるのがセルフケアグッズについてなのですが、歯科クリニックと街の薬局にあるもの違いは一体何なのでしょうか? 例えば、メガネやコンタクトを作る場合は、眼科で視力検査や目の状態を診てもらってから作りますよね。同様に歯ブラシや歯間ブラシも本人に合ったものを使うべきなので、歯科医師が判断して推薦(処方)するものを使用していただきたいのです。 歯ブラシの毛の本数を比較すると分かりやすいのですが、薬局やドラッグストアに置いてある市販品は500本〜800本しかないのですが、歯科医院では最低でも倍以上は入っています。そうすると歯ブラシでひとかきした際の威力が全然違う。500本と1600本だと全然汚れが取れる量が違うし、より効率的に楽に歯磨きをすることができるようになるんです。極端な話、歯ブラシの毛が10本しかない歯ブラシと1000本の歯ブラシ、どちらが汚れが取れるか想像していただくと分かりやすいですね(笑)。 ただ、患者さんはこういう事も説明が無ければあまり意識しないので歯ブラシの毛の本数の重要性もご存じないと思いますし、単価も高くなっているので一般の薬局では売れないので当然売っていません。ですので歯ブラシを選ぶ際には是非、毛の数を頭に置いて選んでほしいと思ってます。私がお薦めしているメーカーは5400本なので10倍以上あります。毛束が多いのも特徴。フロスも同様に市販品は200本だとすると、歯科医院で売っている物の中には1400本で7倍というものもあります。業務用の掃除機と一般の家電量販店の掃除機のパワーの違いと同じような考え方ですね。
セルフケアグッズの選び方
ーーーなるほど。でも専門的な知識が必要そうで、業務用つまり歯科医院で売っている歯ブラシを選ぶのはハードルが少し高いですね。 そうなんです。本来では歯科医師が処方のようにしないといけない歯の清掃器具を、薬局やドラッグストアで手軽に買えるようになっているからこそ、「セルフケアマイスター」として歯ブラシなどの選び方や使い方を教えています。 まずは歯科医療従事者にセルフケアについて教えて、そこを起点に全国の患者さんに広めていくということを狙っています。例えば歯ブラシの適切なサイズ感は毛束の部分が前歯2本分と一致すると良いんですよ。薬局で手鏡などがあって、自分の歯の大きさとチェックしながら選べると良いんですけどね。
(取材日:2020年11月9日) ■取材した方 医療法人社団栄昂会(細田歯科医院・戸塚駅前トリコ歯科)理事長 歯科医師 中原 維浩 氏