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2020/11/27
【歯科医師インタビュー】何よりも大切なのはセルフケア意識と習慣 健康で美しい歯のための“本当“の方法とは?(後編)
日本全国で歯科医師や衛生士にセルフケアの重要性をレクチャーしている中原維浩先生に健康で美しい歯をつくる方法をお伺いしているインタビュー後編。前編ではなかなか知らない歯ブラシの選び方やセルフケアのポイントを教えていただきましたが、今回は気になる歯科クリニックの選び方から今後の歯科業界に対する想いについてまでをじっくりとお聞きしました。
普段から患者さんにお伝えしていること
ーーー前編インタビューで、先生は患者さんに虫歯や歯周病にならないために「なぜセルフケアをするのか?」=背景をしっかり理解してもらうためのコミュニケーションをされているとおっしゃっておりました。そのほかにも普段お話ししていることはありますか? 私たちの場合は問診票で患者さんの人となりを知ることができるので、その方がどんな職業でライフスタイルなのかを知って、それに合わせた治療を提案しています。例えば歯科医師だった場合、多くの場合は被せ物に銀歯は選ばないと思います。質がいいからゴールドやセラミックを間違いなく選びます。 その患者さんに伝わりやすように、なるべくその業界にあるものに例えて提案をします。例えば普段エアコンを取り扱っている職業の方でいうと「いくら海外メーカーが安くても質を鑑みてダイキンの商品を選びますよね。エアコンは空気で身体の中に入るもので、とても健康に大事なもの。健康をお金を買えるんだったら買いますよね?」というように(笑)、ライフスタイルや職業柄で身近なものから健康観に入ると同意を得やすいです。また健康の定義もいろいろあり価値観もひとそれぞれ。どんなことがその患者さんにとっての健康な状態なのかもヒアリングします。どんな健康プランにも歯科医師は絡むことができるので、アプローチできる方法を一緒に模索します。 厚生労働省の健康意識に関するデータだと、一般の方の健康に対するイメージは第1位は「病気がないこと」ですが、第2位の「美味しく飲食ができること」には歯科の得意分野が絡みます。次点の「身体の丈夫さ」というのも、噛み合わせにつながります。噛み合わせを良くすると身体のバランスを保つことにつながり転倒防止に、そして大腿骨骨折やロコモティブシンドローム(寝たきりを引き起こす運動器の病気)予防にもなります。第4位「ぐっすり眠れる」や第5位「不安や悩みがないこと」も腸内細菌のフローラに関わるので口内環境が関係します。以下の「家庭円満」はちょっと難しいですが(笑)、上位5位までは私たちが何らかの形で寄与することが出来るのです。
自宅でのケア方法
ーーー確かに自分のライフスタイルや健康観に合わせて、歯の健康意識もぐっと変わりますね。そして、どんな健康の状態にも実は歯科領域が関わってくるのはとても興味深いです。自宅ではどのようなケアをすれば良いのでしょうか? 人によって違うのですが、あえて言うならばマウスウォッシュの習慣がない人が多いので、意識していただければと。日本人は世界中から口が臭いと思われているので(笑)、毎食後や間食後に歯磨きをすることができなかったとしても、最低限マウスウォッシュだけはして欲しいです。ちなみにマウスウォッシュにも種類がありますが、アルコール入りのものは口が乾いてしまいより臭くなってしまうので、ノンアルコールのものでゆすいでいただいた方がいいですよ。
歯科医療において大事にしていること
ーーーノンアルコールなのですね!知らずにアルコール入りを選んでいることがありました。先生が歯科医療において大事にしていることはどんなことでしょうか? 日本だけの問題ではないのですが、専門があると木を見て森を見ずになってしまいがちなところを、私は医科歯科連携をすることによって、なるべく全体を見るようにしています。私は日本病巣疾患研究会に入会して以下の先生とともに、歯科の分野だけでなく、医科の呼吸器のこと、整形外科のこと、皮膚科のことなどを日々勉強しております。 日本病巣疾患研究会HPはこちら 実はうちのクリニックの6割が医師からの紹介で来てくださっています。コロナで内科の患者さんが8割減して、今でも4割程度しか回復していないそうなのですが、それでも紹介をして下さっているという、とてもありがたい関係です。なので私だけではなく、森を広く見ることができるドクターを増やす取り組みもしています。 あとは重ねてになりますが患者さん自身にセルフケアを大事にしていただくことです。最近は削らない歯医者、抜かない歯医者というのもありますが、何よりもセルフケア。うちのクリニックは患者さんもスタッフも入り口が一緒なので、その天井に英語で『セルフケア・治療・予防』と掲示していて、それを見ながら医院に入ってくることで、意識が継続するようにしています。歯も自分自身で管理しながら、治していける世界にしていきたいです。
歯科医院選びのポイント
ーーー患者さんが歯科医院を選ぶ際、大事なポイントはありますか? 患者さんの記録を経時的にしっかり取っているのか?というのは大事です。よくかかりつけ医が写真を撮っていないなんてことがありますが、ライフスタイルの変化に合わせて歯の経時的記録を残してもらえることが大切です。 これまではかかりつけ医が患者さんの治療の全てを抱えていましたが、今は歯科歯科連携(歯科医院同士の連携)も進んでいて、内容によってかかりつけ医から専門医に送るというのがベストな場合もあります。その際にも記録がしっかりあることが必要不可欠になるのです。また経時的変化を残していることで微小な変化にも気づくことができ、正しい診断を早くすることができます。 最近、診断が難しい病気で『クラックトゥースシンドローム』というものがあります。歯の噛み締めによって歯のエナメル質が摩耗したり、ヒビが入ってしまうことです。コロナ禍でストレスにさらされ、さらに歯軋りを知らない間に強くしている傾向があるのです。この時も、記録があれば奥歯の頬側の僅かなヒビなども過去と比較しながら見つけることができるのです。
歯科医療の未来
ーーーライフスタイルもどんどん変化していく中で一緒に歯の記録を残していくことが、小さな違和感を早くキャッチできるポイントなのですね。先生はこれからの歯科医療はどうなっていく、もしくはどうしていきたいと思っていらっしゃいますか? そもそも虫歯も歯周病も本当はかかるのがレアな病気で予防できる病気のはずなのに、世界で最も多い病気のトップ10に乳歯も永久歯も未処置の虫歯、そして歯周病も入っているのはおかしい事なんです。ですので、これまでの『ドリル(drill)フィル(fill)ビル(bill)』という削って埋める治療でなはく、生きる力を支える医療に変わると思っております。 高齢期における身体の機能の衰えを整形外科では『ロコモ(ロコモティブシンドローム)』、歯科業界では『フレイル』という風に呼んでいます。60歳以上の10人に1人が虚弱と呼ばれていて、国からも一般社会からもアプローチを求められています。フレイルの状態を健康に持っていくのは、歯科業界の得意分野だと思っています。 また、予防の父とも言われるスウェーデンのアクセルソン先生が提言されていることなのですが、正しいメンテナンスによってほとんどの歯は守られ、虫歯も歯周病にもならないということが証明されています。またメンテナンスの際にも、リスク部分のケアが大事とされており、その人自身の歯のリスクは何かを鑑みて治療することが必要。奥歯の頬側が虫歯になる人は、歯軋りでクラック(ヒビ)が入って細菌が入ることが、実は大きな問題かもしれない。また毎日のセルフケアも患者さんが自分の高リスクな部分を知ることで、3分の歯磨きの内訳を変えることができ、リスクに対して時間をかけてケアすることができる。その患者さんのリスクが何かをきちんと教えていけるようにしたいと思っています。
患者さんへのメッセージ
ーーーリスクを知ることで本当の意味での正しいセルフケアを効果的に行うことができるのですね。最後に患者さんへのメッセージをお願います。 最近は歯科クリニックに求めることが多くなってきているので、勉強しているドクターも増えてきています。歯科クリニックは健康な人が唯一行くともいえる医療機関なので、健康な人こそ歯科に来てほしいと思っています。 直接歯のことではなくても睡眠時無呼吸にも寄与できますし、口内炎で内科に行く人もいますが、実は歯科の方が専門だったりします。飲み込みづらい、むせやすいというケースもそうです。みなさんが知らない歯科の活用方法も各院のホームページなどに出ているので、虫歯や歯周病だけで通うだけではない歯科クリニックの使い方をしていただければと思います。
(取材日:2020年11月9日) ■取材した方 医療法人社団栄昂会(細田歯科医院・戸塚駅前トリコ歯科)理事長