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2020/12/07
【歯科衛生士インタビュー】本当に目立たない?ぶっちゃけ効果はあるの? 日本初のマウスピース矯正研修講師に聞く 今、知っておきたい『矯正治療』最新事情とは 〜Part1〜
見た目の美しさや美味しく食べ物を味わうために歯並びを綺麗にしたい!と矯正治療を検討する人も多いはず。欧米では身だしなみ、健康管理の一つとしてあたりまえの歯列矯正。近年は日本でも大人から子供までQOLを高めるために治療をする人が増えています。以前は矯正装置の見た目がちょっと…なんて躊躇することもありましたが、最近は見えない矯正の方法もどんどん進化。 特によく目にするのが透明で目立たない『マウスピース矯正』。これ本当に効果はあるの?実際にどんな風に治療する?などと興味はあるけど疑問に思うことも多いはず。今回は多くの患者さんの治療に携わりながら、日本初のマウスピース矯正専門の研修講師もされている歯科衛生士の穴沢さんに包み隠さずに(笑)最新事情をお伺しました!とても濃い内容なので、全3回に分けてお届けします。
矯正専門の歯科医院を開業されるまでのストーリー
ーーー本日はよろしくお願いします。今や矯正専門の歯科を開業されている穴沢さんですが、とても珍しいご経歴ですよね。読者のみなさんも女性のキャリアとして気になるところだと思うので、これまでのストーリーを教えていただけますか。 実は私、元々歯科に興味があったわけではないんです。というか、恥ずかしながら歯科衛生士という職業すら知らなかったんです。母子家庭だったこともあり幼い頃から母には資格を取って早く自立した方がいいよ、ということを言い聞かされていました。 高校3年生の進路を考える時、担任の先生に歯科衛生士の学校を教えてもらって「(当時)2年で資格が取れるし、楽しそうだし、いい!」という理由からこの道に入りました。その後、医療生活協同組合の組織に入って生協病院で歯科衛生士として働きはじめました。歯科衛生士3年目で結婚を機に働き方を考え始めたんですね。仕事は楽しいのですが、歯科医院は朝から夜までと拘束時間も長く、新婚なのに家事と仕事を両立できるかな・・・?なんて思い、他の業界の就職活動もして結果的に銀行で働くことになりました。就職活動一つにしてもとても勉強になりました。 歯科業界、特に歯科衛生士は売り手市場なので、職務経歴書を書くこともほとんどありませんし、面接したらほぼ採用というような場所も話に聞きます。この時の就職活動や銀行での勤務経験は社会勉強として、とてもいい経験になりました。 28歳のときに今後の人生を考えて歯科衛生士に戻ろう!と思い、また歯科業界へ戻りました。大手歯科医療法人の歯科クリニックで一般歯科、審美歯科、インプラント治療、ホワイトニング、自費メンテナンス、様々な診療に携わりました。ちょうど日本ではインプラントが低迷し始めたタイミングで、所属していた医療法人では先見の明でマウスピース矯正である『インビザライン』に力を入れはじめたタイミングでした。運よく矯正チームに入ることができ、最新の矯正治療を歯科医師から学びながらたくさんの症例を経験しました。特に当時はインビザラインを取り扱っている歯科医院はとても少なかったんです。本当に歯が動くの?(治せるの?)、どんなメカニズム?と、手探りで施術していた先生も多い中で私の勤務していた医療法人は日本でインビザラインを背負っていくんだ!という気概を持って取り組んでいました。 そのため医療法人内でインビザライン治療を任されていた歯科医師(わたしのメンターでもあります)は自主的にドイツやアメリカに学びに行き、学んだ内容を医療法人内に落とし込んでくれており、私自身もとても良い経験をさせていただきました。私自身もこのとき、実際にインビザライン治療を受けることで理解が深まりました。
開業のきっかけ
ーーーどれもこれも引き寄せられた運命のような出来事ですね!特に日本でのインビザライン導入期に最新技術や知識をいち早く身につけることができたのは本当に素晴らしいです。開業はもともと考えられていたんですか? いいえ(笑)。開業を考えたのはちょうど1年前です(2019年11月ごろ)。歯科医療法人で4年半勤務した後、タイミングとご縁があり独立することになりました。 一般歯科での歯科衛生士業務や、新規開業のサポート、メーカーの仕事など様々させていただきつつ、マウスピース矯正研修講師としても走り出しました。2018年には株式会社化して仲間を増やし、研修を行っております。そんな中で急に閃いたんです(笑)。開業したい!と。 理由は大きく2つあって、ひとつは研修講師として人材育成をする上で臨床の現場が欲しかったこと。もうひとつは、患者さんのために妥協せずに提供したいなという想いです。日々様々な場所で診療に入る機会がありますが、場所によっては器具が不十分であったり、アポイントが詰まっていて納得がいくまで時間をかけてお話ができなかったりと妥協せざるを得ないシーンも多々あります。 こういった想いから横浜の地で開業する運びになりました。余談ですが横浜の土地を選んだのも偶然でして、もともとは名古屋と東京をベースに活動していたのでなんとなく東京かなぁと思っていたんですが、ディーラーさんに横浜を紹介されて、物件を見に行ったらこの運命の場所に出会ってしまい(笑)、今に至ります。
矯正治療をする上での歯科医師と歯科衛生士の役割の違い
ーーーいろんなご縁があって開業につながったのですね。ちなみに素朴な疑問なのですが、矯正治療する場合の歯科医師と歯科衛生士の役割の違いはなんなのでしょうか? そうですね、矯正の方法によって異なります。従来のワイヤー矯正(ブラケット)の場合はメインは歯科医師。歯科衛生士は指示されたことを作業としてすることが多い印象です。一方でマウスピース矯正、特にインビザラインの場合は8割方を歯科衛生士が担えるイメージです。診断と歯の切削は歯科医師が行いますが、それ以外の施術やチェック、患者さんのモチベーションサポートは歯科衛生士が行えます。 患者さんに近い距離感で細かいニーズの汲み取りや治療を円滑に進めるお手伝いができます。患者さんがマウスピースを付け続ける事が大切なので、特にモチベートに関わるお声掛けは歯科衛生士の方がいい場合が多いんです。 治療中はいろいろな悩みがつきもの。ワイヤー矯正は患者さん自身で器具の取り外しがないので、矯正を始めてしまえば日常生活の中で悩む事って少ないんです。でも、マウスピース矯正は取り外しができる分、「こんなときは外して大丈夫?」「歯磨きしてないけど取り付けていい?」「人前で話す機会があるんだけど滑舌良くしたいから1時間ほど外していいかな?」など悩みが尽きないもの。こういった悩みへの回答はSNS上や知恵袋などで一般のマウスピース矯正経験者の方が「私の場合はこうしましたよ」と回答しているものが多いんです。それをそのまま真似してしまい間違った方法をしている場合も。患者さんがインターネットやSNSに頼りすぎず、気軽に相談できる環境を作ることが私たちの役目かなと思ってます。 ありがちなのが、歯科医師には相談しにくい、怒られそうという患者さん心理。歯科医師側は矯正治療を成功させることが第一の目標なので、患者さんから「こんなときはどうしたらいいですか?」と相談された場合、寄り添って一緒にどうしたらいいか考えるというよりは「ちゃんとルールを守って」と悪気なくビシッと言っちゃうこともあるんです。結果、患者さんは萎縮してしまい「こんなつらい治療ならやりたくない…」と感じてしまうこともあるので、それは避けなければと思ってます。
(取材日:2020年11月11日) ■取材した方 横浜関内矯正歯科ブランシュ 副院長 株式会社Blanche代表 穴沢 有沙 氏