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投稿日:2025/09/04
更新日:2026/01/20
奥歯の役割は?奥歯を失った場合の対処法などもまとめて解説
奥歯といえば、食べ物を「噛む」機能がまず思い浮かびますが、それ以外にも、私たちの健康や生活を支える重要な役割があります。
この記事では、暮らしの中で重要な奥歯の役割や、奥歯を失った場合の治療法などについて、わかりやすく解説します。
奥歯の種類
奥歯は、小臼歯と大臼歯、親知らずの三種類に分けられます。では、三種類の奥歯がそれぞれどのような特徴を持つのか、詳しく見ていきましょう。
小臼歯
小臼歯は、前場から数えて4番目と5番目に位置し、上下左右に2本ずつ、計8本生えています。下あごが奥へ下がるのを防ぎ、顎関節の機能を守りながら噛み合わせを安定させる働きがあります。
矯正治療で抜歯の対象とされることが多い小臼歯ですが、顎関節への負担を減らし、噛み合わせのバランスを保つ大切な歯です。
大臼歯
大臼歯は、小臼歯の後ろに第一大臼歯・第二大臼歯と並び、上下左右に2本ずつ、計8本生えています。第一大臼歯は生え始めが6歳ごろのため「6歳臼歯」、第二大臼歯は12歳ごろに生えるため「12歳臼歯」とそれぞれ呼ばれます。
大臼歯は噛む面が広く、根も複数あるため、歯の中で最も強い咬合力を持ちます。
なかでも第一大臼歯は特に噛む力が強く、噛み合わせの基準となる重要な歯です。第一大臼歯を失った場合、咬合力が大きく低下し、そのまま放置すると噛み合わせが崩れてしまいます。
親知らず
親知らずは大臼歯のさらに奥に位置し、第三大臼歯とも呼ばれます。ほかの歯が15歳ごろまでに生えそろうのに対し、親知らずは10代後半から20代前半にかけて生えることが多く、人によっては生えてこない場合もあります。
歯列の最も奥に位置し、斜めに生えることもあるため、歯ブラシが届きにくく歯垢がたまりやすい歯です。生え方によっては、周囲の健康な歯に悪影響を及ぼすこともあります。
▶親知らずについてもっと詳しく知りたい方は、
親知らずの抜歯は必要?難しいケースや抜歯後の注意点について解説
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奥歯の役割
私たちが健康な生活を送るために、奥歯の役割はとても重要です。ここでは、奥歯の具体的な役割をいくつか紹介します。
咀嚼
前歯が食べ物を噛み切るのに対し、奥歯はその後しっかり咀嚼して細かくすりつぶす、臼(うす)のような役割を担っています。食べ物が細かくなることで唾液とよく混ざり、やわらかく、飲み込みやすくなります。
その結果、消化器官に負担をかけずに必要な栄養を体に取り込むことができるのです。
また、奥歯は1本失うだけで噛む力が30〜40%も低下するとされています。その場合食べ物を十分に細かくできないため、飲み込みが難しくなるなどの嚥下障害が起こる危険や、消化不良、栄養の吸収の低下を招く場合もあります。
発音
奥歯は正確な発音にも欠かせません。奥歯には舌の位置や動きを安定させる働きがあり、言葉を発するときに正しい音を作る役割を担っています。
奥歯を失うと隙間から息が漏れやすくなり、正しい発音が難しくなると言われています。発音の問題は人とのコミュニケーションに支障をきたしかねないため、生活の中で困る場面が増えるかもしれません。
歯並び・顔の輪郭形成
奥歯は、歯並びや顔の輪郭形成にも深く関わっています。
万が一奥歯を失ってしまうと、その空いた部分を補おうと前後の歯が傾いたり、噛み合う歯が伸びたりして、全体の歯並びが乱れる場合があります。
歯並びの乱れは、頬や口元の形の変化を招きます。噛み合わせのバランスが崩れ、顔の左右の筋肉の厚みに差が出てしまうためです。
さらに、奥歯を失ったままにしておくと、顎の骨(歯槽骨)が徐々に痩せていきます。本来骨は、破骨細胞が古い骨を壊す「骨吸収」と、骨芽細胞が新しい骨を作る「骨形成」を繰り返すことで常に新しく保たれます。
しかし、歯を失い、歯の根が顎の骨に刺激を与えなくなることで、骨は「使われていない」と判断され、骨吸収と骨形成の代謝サイクルが行われなくなってしまうのです。
その結果、顎の骨が痩せてしまい、頬がこけたり、顔全体の歪みにつながってしまいます。
瞬発力
奥歯には、瞬発力を引き出す役割もあります。奥歯を食いしばることで体幹が安定して力が体に効率よく伝わり、瞬発力を発揮しやすくなるのです。
重い物を持つときやスポーツの場面では、力を最大限に引き出すため、奥歯をしっかり噛み締めることがとても重要だとされています。特にボールを打つ、遠くへジャンプする、走り出すといった動作では、奥歯を食いしばることで瞬発力が働き、より大きな力を出すことができます。
記憶力
奥歯でしっかり物を噛むことは、記憶力とも関わりがあることがわかっています。
噛む動作によって歯の根元にある歯周組織の「歯根膜」が刺激され、その刺激が脳へと伝わります。この働きによって、運動や感覚だけでなく、記憶力や思考力などの機能も活性化されるのです。
一方で、奥歯を失い噛む力が弱まると、記憶をつかさどる脳の「海馬」や神経細胞などが減少し、物忘れが起こるなど、認知機能の低下が進むという研究結果も報告されています。
奥歯を健康に保つことは、脳の健康を守ることにつながると言えるでしょう。

奥歯を失ってしまう原因
私たちの暮らしを支える奥歯ですが、思わぬ理由で失ってしまうことがあります。どのような原因が考えられるのか、いくつか見てみましょう。
虫歯
奥歯を失う主な原因に虫歯があります。軽度の虫歯であれば歯を残す治療が可能ですが、虫歯が歯の神経(歯髄)まで進行すると、神経が壊死し、歯の見える部分(歯冠部)が崩れてしまいます。
この段階まで虫歯が進むと、抜歯が避けられなくなります。
奥歯は食べ物をすりつぶすための凹みや溝が多い歯です。そのため、虫歯の原因となる食べかすや歯垢が溜まりやすい傾向があります。
しかし、口の奥はスペースが狭く歯ブラシが届きにくいことから、前歯に比べて磨き残しが多くなります。そのことから、奥歯は虫歯になりやすい傾向があるのです。
歯周病
歯周病も奥歯を失う大きな要因となります。歯周病とは、歯と歯ぐきの隙間に侵入した歯垢に含まれる歯周病菌が歯ぐきに炎症を起こし、歯を支える顎の骨(歯槽骨)を徐々に破壊して最終的に歯を脱落させてしまう病気です。
奥歯は、日ごろのブラッシングでも歯ブラシの毛先が届きにくく、歯と歯ぐきの間に歯垢の磨き残しが生じやすい部位です。特に、上の奥歯の近くには唾液腺の出口があり、その周囲は歯石が付着して細菌が繁殖しやすく、歯周病のリスクが高まります。
また奥歯は、歯ぎしりや食いしばりによる強い力を受けやすい歯です。こうした負担は歯根膜を歯槽骨が傷つけ、歯周組織が弱まるため、歯周病が進行しやすくなる場合があります。
外傷・事故
外傷や事故も、奥歯を失う理由のひとつです。転倒やスポーツ中のアクシデント、交通事故などで顔や口元に強い衝撃が加わると、奥歯が割れたり、場合によっては抜けてしまう要因となります。
また、人は強い衝撃を受けると反射的に奥歯を強く噛み締めるため、歯本体に直接の衝撃が加わっていない歯であっても、奥歯が割れてしまうことがあります。
とくに、神経を失った歯や人工の歯は、健康な歯に比べて割れやすい傾向があります。
過剰な歯ぎしりや食いしばり
過剰な歯ぎしりや食いしばりが奥歯に大きな負担をかけ続けた場合、歯を失うことがあります。
人間の噛む力はとても強く、通常時でもおよそ自分の体重程度の力が加わります。歯ぎしりや食いしばりでは、その力がさらに大きくなり、瞬間的には体重の2〜5倍にも達すると言われています。こうした過剰な力が繰り返しかかることで、奥歯がすり減ったり、ヒビが入ったりし、最終的には割れてしまうのです。
なお、歯ぎしりや食いしばりが起こる原因としては、ストレスや緊張、かみ合わせや歯並びの異常、さらには睡眠時の枕の高さが合っていないことなどが挙げられます。
▶歯ぎしりの影響についてもっと詳しく知りたい方は、
歯ぎしりが体に及ぼす7つの悪影響とその対策
をご覧ください。
加齢による奥歯の劣化
加齢による歯の劣化で奥歯を失うこともあります。年齢を重ねると、体のあちこちに変化が現れるように、歯も少しずつ変化していくためです。
奥歯は毎日の食事や歯磨きなどで長年使われることで表面が少しずつ摩耗し、噛む力が弱くなっていきます。さらに、エナメル質も薄くなることもあいまって、以前よりも虫歯になりやすくなります。
また、高齢になると唾液の量が減少する傾向があります。唾液には口の中をきれいに保ち、虫歯や歯周病を防ぐ働きがありますが、分泌が減るとその予防力も低下してしまいます。
加えて、糖尿病や骨粗しょう症など、高齢期に多い生活習慣病も奥歯に影響を及ぼします。これらの病気によって歯ぐきや歯を支える骨が弱くなり、あごの骨も徐々に減っていくため、奥歯が抜けやすくなってしまうのです。
奥歯の寿命は前歯より短い
一般的に、奥歯は前歯より寿命が短いと言われています。
永久歯の平均寿命は約50〜65年とされていますが、奥歯は前歯より10年以上早く抜けやすいとする歯科医師も少なくありません。これは、奥歯の形や磨きにくさから虫歯や歯周病のリスクが高いことに加え、噛む力の強さが関係しているためです。
食べ物を噛んだりすりつぶしたりする際、奥歯には前歯の4〜5倍、体重に匹敵するほどの力がかかります。虫歯や歯周病でダメージを受けた奥歯にこの力が加わると、負担に耐えられずに割れたり抜けやすくなったりしてしまうのです。

奥歯を失った場合の治療法
万が一奥歯を失ってしまった場合、いくつかの治療法があります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
インプラント
インプラントは、あごの骨に人工の歯根(チタンなどの金属製)を埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療法です。
見た目や噛み心地が自然で、自分の歯とほとんど変わらない感覚が得られる点が特徴です。また、残っている周りの歯に負担をかけないこと、適切なケアを続ければ長期間使用できることがメリットとして挙げられるでしょう。
加えて、インプラントは顎の骨に直接刺激を与えられるため、骨の吸収が抑えられることも利点のひとつです。
一方で、インプラント治療には注意すべき点もあります。手術が必要で治療期間が数か月に及ぶことや、自費負担のため治療費は高額になる傾向があることです。顎の骨の量や骨質(硬さややわらかさ)によっては、骨移植など追加の処置が必要になる場合もあります。
さらに、毎日のブラッシングなどのケアを怠ると、インプラントの周囲に炎症が起こる「インプラント周囲炎」を招き、悪化した場合にはインプラントを取り除く治療が必要になることもあります。
ブリッジ
ブリッジは、失った歯の両側にある健康な歯を削って土台にし、人工の歯を橋をかけるように連結して固定する治療法です。
ブリッジの治療期間は比較的短く、通常は数週間程度で済むケースがほとんどです。症状や歯科医院によっては健康保険が適用される場合もあり、費用が抑えられるという特徴もあります。入れ歯のように取り外す必要がない、歯ぐきを切ったり骨を削ったりする外科的な処置を行わなくて済むなどのメリットもあります。
一方で、健康な隣の歯を削る必要があるため、削った歯の寿命が短くなるなど、将来的に問題が起こるリスクがあります。
また、3本分の歯がつながった形になるため、支えている歯に虫歯や歯周病などのトラブルが発生した場合、その部分だけの治療では済まず、ブリッジ全体を取り外して治療する可能性があります。
さらに、ブリッジは天然の歯のように歯根が顎の骨に直接触れていないため、顎の骨に対して刺激が与えられません。結果的に顎の骨がやせてしまうこともデメリットと言えます。
入れ歯(部分入れ歯)
入れ歯(部分入れ歯)は、取り外しが可能な義歯です。保険診療のものと自費診療のものがあり、保険適用の入れ歯は、レジンというプラスチック素材で作られるため費用を抑えやすいのが特徴です。自費診療の入れ歯は、金属のバネがない「ノンクラスプデンチャー」や金属床義歯など、さまざまなタイプがあります。
入れ歯の主なメリットは、外科手術が不要なこと、複数の歯を失った場合でも対応できることです。また、取り外しが可能なため清掃がしやすく、衛生面で管理しやすいという点も魅力です。
一方で、装着時に異物感や、噛む際の違和感を覚えるというマイナス面もあります。また、天然の歯に比べ安定性がやや劣ることから、咀嚼力は天然の歯に比べて20〜30%ほどに低下します。そのため、食事に時間がかかるようになる恐れがあります。
また、隣接する歯との間に食べ物の残りや歯垢がたまりやすいため、虫歯や歯周病のリスクが高まります。さらに、入れ歯にはブリッジと同様に歯根がないことから、噛んだ際の刺激が顎の骨に伝わらず、骨がやせていく原因となることもデメリットのひとつです。
奥歯の磨き方のコツ
磨きにくい奥歯ですが、丁寧な磨き方を身につけてしっかりケアすることが大切です。ここでは、奥歯の部位ごとの磨き方を紹介します。
・奥歯の頬側(ほお側):口をやや閉じ気味にして磨きましょう。唇の端を歯ブラシの柄で軽く引くようにすると、毛先が奥歯まで届きやすくなります。
・奥歯の舌側:前歯の中央付近から、歯並びに沿うように歯ブラシを入れると、奥歯の舌側にも毛先がしっかり当たり、磨きやすくなります。歯ブラシを入れやすい方向に少し顔を向けると、手の疲れも軽減されます。
・奥歯の奥の面:歯ブラシのつま先部分(先端の毛先)を使って磨きます。噛み合わせの面から毛先をあてるようにして、歯垢を丁寧に掻き出すように磨くと効果的です。
歯ブラシを歯面・歯と歯ぐきの境目・歯と歯の間にきちんとあて、軽い力で小刻みに動かすことがきれいに磨けるコツです。
奥歯の奥までしっかり届くよう、ヘッドが小さく、ネックが細いタイプの歯ブラシを使用することをおすすめします。デンタルフロスも活用し、奥歯の奥に残った歯垢をきれいに掻き出すようにしましょう。

まとめ
奥歯は、食事だけでなく発音や歯並び、さらには瞬発力や記憶力にも大きな影響を与えています。そのため、たとえ一本でも失ってしまうと、これまで普通にできていた食事や運動に支障が出る場合があります。
奥歯の健康は、体全体の健康に直結していると言えるでしょう。日々の丁寧なブラッシングやフロスの使用、そして定期的な歯科検診を心がけることで、奥歯の寿命を少しでも長く保つことが大切です。
筆者:seeker編集部
監修者・コメント
歯科医師
都内歯科医院勤務
三宅 友紀 先生
奥歯は食事の際の咀嚼だけでなく、噛み合わせの安定や発音、顔貌のバランス維持など、さまざまな役割を担う重要な歯です。奥歯を失うと、噛みにくさだけでなく歯並びの乱れや顎の骨の吸収など、口腔内全体に影響が及ぶ可能性があります。
もし奥歯を失ってしまった場合には、放置せず早めに歯科医院へ相談することが大切です。日頃から丁寧なセルフケアと定期的な歯科受診を心がけ、奥歯を守ることが全身の健康維持にもつながります。

























